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【書評】誉田哲也『ジウ2』感想・レビュー:交錯する光と影、そして崩壊する日常の果てに

今回ご紹介するのは、誉田哲也先生の超弩級警察エンターテインメント、サスペンス・アクションの金字塔とも言える「ジウ」シリーズの第2作目、『ジウ II』(中公文庫)です。

2005年の単行本刊行から長い年月が経ち、現在は2026年となりましたが、本作の色褪せない魅力、そして現代社会にも通じるテロリズムや社会不安のリアルな描写は、今読んでも全く古さを感じさせません。前作『ジウ I』で読者の度肝を抜いた圧倒的なスピード感とバイオレンスはそのままに、本作ではさらに物語の「闇」が深く、広く展開していきます。

今回は、この『ジウ II』のあらすじから見どころ、そして個人的に胸をえぐられた衝撃のシーンの感想まで、語り尽くしたいと思います!少しダークでヘビーな内容に踏み込みますので、ネタバレも若干含みます。未読の方はご注意くださいね。

目次

あらすじ

前作での壮絶な人質籠城事件を経て、物語はさらにスケールアップし、予想もつかない方向へと転がっていきます。本作『ジウ II』では、主に3つの視点(ミヤジ、伊崎基子、門倉美咲)が交錯しながら、巨大な闇の輪郭が徐々に浮き彫りになっていきます。

圧倒的な絶望:銀行の爆発事件でSATが壊滅

本作の序盤から中盤にかけて、読者を最大のパニックに陥れ、絶望の底へと突き落とすのが、信金(銀行)での立てこもり事件と、それに続く大爆発です。前作からの因縁で繋がるこの事件に対し、警視庁は最強の切り札である特殊急襲部隊「SAT」を出動させます。 しかし、これは犯人グループが周到に仕組んだ悪魔的な罠でした。突入を試みた精鋭のSAT隊員たちを待ち受けていたのは、建物を内部から吹き飛ばすほどの凄まじい爆発。この信金爆破事件により、日本の警察の誇りであるSATは多数の死傷者を出し、事実上の「壊滅」状態に追い込まれます。警察の威信が文字通り粉々に打ち砕かれるこの凄惨な出来事は、敵の組織力と常軌を逸した異常性を世間に知らしめる決定的なターニングポイントとなります。

ミヤジの視点:語られる「私」の過去と新世界秩序

本作から頻繁に挿入されるようになるのが、「私」と名乗る謎の人物の不気味な独白です。彼の名は「宮路忠雄(ミヤジ)」。新潟の寒村でヒロポン(覚せい剤)の密造を生業とする閉鎖的な集落で育った彼は、やがて村人を惨殺してヒロポンを強奪し、それを元手に裏社会でのし上がっていきます。高度経済成長の波に乗り、不動産王として莫大な富を築いたミヤジ。彼はその途方もない財力を使って、政財界、法曹界、メディアなどの要人たちに「新世界秩序」という危険極まりないカルト的思想を植え付けてきました。 ただの犯罪者ではなく、国家を根本から造り変えようとする巨大なフィクサー。そして彼こそが、美しき金髪の殺人鬼の少年「ジウ」のパトロンであり、すべての事件の背後にいる真の黒幕であることが明かされていきます。

伊崎基子の視点:孤高の女戦士の変貌

前作でSAT初の女性隊員として死線を潜り抜けた伊崎基子。彼女は前作の事件の裏事情(上層部の保身や口止め)もあり、異例の巡査部長へと特進し、所轄である上野署へと異動になります。しかし、生粋の「戦闘マシーン」としてのアイデンティティを持つ彼女にとって、平穏な日常業務は退屈で空虚なものでしかありません。 そんな彼女のもとに、フリーライターの木原が接触してきます。木原と共に独自の非合法な捜査に乗り出した基子は、警察という組織のルールを完全に逸脱していきます。法や倫理よりも、自身の内なる闘争本能と、圧倒的な力を持つ「ジウ」という存在への異常な執着に突き動かされる基子。彼女のパートは、警察小説というジャンルを越え、一人の人間が修羅へと堕ちていくハードボイルド・ノワールの様相を呈していきます。

門倉美咲の視点:泥臭く真実を追う刑事の執念

一方、警視庁特殊犯捜査係(SIT)に残った門倉美咲は、東警部補とともに地道な捜査と取り調べを続けていました。連続児童誘拐事件の実行犯たちと対峙する中で、彼女たちは単なる営利誘拐ではない、背後に潜む異常な教義の存在に気づき始めます。 それがミヤジの提唱する「新世界秩序」です。実行犯の口から語られるその言葉の不気味さと、取り調べ中の容疑者の突然の自殺。さらに前述の銀行爆発によるSAT壊滅という未曾有の事態を目の当たりにし、美咲は想像を絶する巨大な闇が口を開けて待っていることに戦慄します。圧倒的な暴力と恐怖の前に震えながらも、決して逃げ出さず、刑事としての矜持と持ち前の「優しさ」を武器に食らいついていく美咲の姿が克明に描かれます。

見どころ

本作の最大の見どころは、なんと言っても「対極に位置する二人のヒロインの運命の分岐」です。 「動」と「静」、「光」と「影」、「情」と「理」。前作でも対照的だった門倉美咲と伊崎基子ですが、『ジウ II』ではそのコントラストがさらに強烈に、そして残酷なまでに際立ちます。警察組織の中で泥臭く正義を全うしようとする美咲に対し、組織を離れ、自らの本能のままに闇夜を駆ける基子。二人が全く違う道を歩みながらも、最終的に「ジウ」という一つの特異点に向かって引き寄せられていく構成は、誉田哲也先生の筆力の真骨頂と言えるでしょう。

また、ミヤジという底知れぬ悪の存在が本格的に加わることで、物語は単なる「警察vs犯罪者」から「国家体制vs新世界秩序」という壮大なスケールへと変貌します。息をつかせぬアクションシーンと、背筋が凍るような心理描写のバランスが絶妙で、ページをめくる手が本当に止まらなくなります。

感想

ここからは、私が個人的に『ジウ II』を読んで最も心を揺さぶられたポイントについて、率直な感想を書きたいと思います。

伊崎基子が人を殺してしまい、闇へ堕ちていくシーンの衝撃

本作において最も衝撃的で、ある意味で妖しく美しく、そして底知れぬ悲しさを感じたのは、伊崎基子が自らの手で人を殺め、後戻りのできない闇へと完全に堕ちていく一連のシーンです。

基子は本来、法を守るべき警察官です。しかし、彼女の内面には常に暴力への渇望と、他者に対する冷酷なまでの無関心が存在していました。独自の捜査を進める中で邪魔な存在と対峙した時、彼女は正当防衛でも逮捕術でもなく、明確な「殺意」を持って相手の命を奪います。その描写の生々しさ、鍛え上げられた肉体が繰り出す殺人術の凄惨さには、読んでいて思わず息を呑みました。

普通の警察小説であれば、ここで激しい葛藤や後悔が描かれるはずです。しかし、基子は違いました。彼女は人を殺したことで、むしろ自分の中の何かが解放されたかのような、ある種の「覚醒」を迎えるのです。警察官としての建前を捨て去り、純粋な戦闘者、いや「獣」として覚醒していく基子の姿は、恐ろしくもあり、同時にどこか神々しさすら感じてしまうほどでした。 彼女がジウの存在に惹かれるのは、ジウもまた彼女と同じ「愛を知らず、圧倒的な力のみを信じる獣」だからなのでしょう。正義の側から完全にドロップアウトし、孤高の修羅となっていく基子の生き様は、倫理的には絶対に許されないことですが、フィクションのキャラクターとしてはこれ以上ないほど魅力的で、強烈な磁力を放っています。

門倉美咲視点の印象に残るシーン:恐怖の中で輝く「人間の強さ」

基子が超人的な存在へと変貌していく一方で、私の心を強く打ったのは、どこまでも「普通の人間」であり続ける門倉美咲の姿です。

本作で最も印象に残っている美咲のシーンは、SATが壊滅した銀行爆発事件の直後、そして「新世界秩序」という底知れぬ思想の存在に直面した時の彼女の反応です。美咲は基子のように超人的な身体能力があるわけでも、冷徹な精神力を持っているわけでもありません。凄惨な事件を前にして彼女は足の震えを隠せず、恐怖に涙し、犯人たちの狂気に圧倒されて吐き気すら覚えます。

しかし、だからこそ美咲の姿は尊いのだと強く感じました。彼女は恐怖で心が折れそうになりながらも、決して目を背けません。「怖い」と泣きながら、それでも被害者のため、そして自分が信じる正義のために、再び立ち上がって前を向くのです。 容疑者の取り調べシーンで、美咲が相手の心に寄り添おうとし、人間として向き合おうとする姿は、ミヤジやジウの持つ「冷たい世界」に対する唯一の希望の光に思えました。圧倒的な暴力(基子)でもなく、狂信的な思想(ジウ・ミヤジ)でもない。涙を流しながらも他者を思いやる美咲の「優しさ」こそが、実は最も強い武器なのではないか。そう感じさせてくれる彼女の泥臭く人間臭い奮闘ぶりは、本作における最大の救いであり、読者が最も感情移入できるポイントだと思います。

こんな人におすすめ

『ジウ II』は、以下のような方に自信を持っておすすめできる作品です!

  • ダークで重厚なサスペンス・警察小説が好きな方
    単なる謎解きではなく、人間の深い業や社会の闇をえぐるような、重たいテーマの作品を読みたい方にぴったりです。
  • 価値観が揺さぶられるような強烈なキャラクターを求めている方
    伊崎基子という、日本の小説界でも稀有なダークヒロインの生き様に圧倒されたい方は必読です。
  • 圧倒的なスケールとスピード感を味わいたい方
    SAT壊滅など、ハリウッド映画顔負けの大掛かりな事件が連続します。ジェットコースターのような展開を楽しめます。

(※注意) 暴力描写や凄惨なシーンが苦手な方には少し刺激が強いかもしれませんので、その点は心の準備をお願いします!

まとめ

いかがだったでしょうか。誉田哲也先生の『ジウ II』は、三部作の「つなぎの巻」という枠を遥かに超え、それ単体で途方もないエネルギーを持った大傑作です。

銀行爆発によるSAT壊滅という警察側の致命的な大敗北、ミヤジによって明かされる「新世界秩序」という絶望的な未来図。そして、修羅の道へと堕ちていく伊崎基子と、人間としての感情を武器に闇に立ち向かう門倉美咲。すべての要素が絶望的に絡み合いながら、物語は最終巻『ジウ III』での全面対決へと猛スピードで突き進んでいきます。

読み終わった後には、重い疲労感とともに「早く次を読ませてくれ!」という強烈な飢餓感に襲われること間違いなしです。現代社会の抱える闇とリンクする恐るべきテーマを持った本作。まだ読んだことがない方は、ぜひこの底なしの沼に足を踏み入れてみてください!

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