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さてさて、今日みなさんと一緒に熱く、そして少し背筋を凍らせながら語り合いたいテーマは、伊坂幸太郎さんの大傑作エンターテインメント小説『マリアビートル』についてです。 そして、その中でも圧倒的なインパクトを放ち、読者の心に強烈なトラウマ(?)を植え付けたあのキャラクター……そう、「王子慧(おうじさとし)」にスポットライトを当ててみたいと思います!
『マリアビートル』といえば、東北新幹線「はやて」という逃げ場のない密室を舞台に、腕利きの殺し屋たちが次々と予測不能な事態に巻き込まれていく、超絶スピード感あふれる群像劇ですよね。 不運すぎる殺し屋「七尾(天道虫)」や、機関車トーマスをこよなく愛する「檸檬」、文学好きで几帳面な「蜜柑」など、伊坂作品ならではの魅力的でどこか愛すべきキャラクターがこれでもかと登場します。
しかし!そんな個性豊かで人間味あふれる凄腕のプロたちを完全に差し置いて、物語の中で「一番恐ろしい」「一番ヤバい」と読者を震え上がらせたのが、なんと弱冠14歳、中学生の王子慧なんです。
今回は、そんな王子慧の恐るべき本性と、彼が物語の中で果たした役割、そして彼がいかにして大人たちを絶望の淵に追いやるのかについて、徹底的に語り尽くしたいと思います。
お気に入りのお茶でも飲みながら、ゆっくり読んでいってくださいね!
天使の顔をした悪魔?王子慧の異常すぎるプロフィール
まずは、王子慧というキャラクターがどういう人物なのか、その異常性からおさらいしていきましょう。
彼は、一見すると「どこにでもいる、むしろ人なつっこくて可愛らしい優等生」です。前髪を少し長めに残した端正な顔立ちで、大人に対しては非常に礼儀正しく、誰からも好感を持たれるような「完璧な少年」を演じています。学校の担任である鈴木先生をはじめ、周囲の大人たちは彼が悪いことをするなんて微塵も疑っていません。
しかし、その中身は正真正銘のサイコパス(精神病質者)です。 他人の痛みや感情に対する共感能力が完全に欠如しており、自分の思い通りに人を動かすこと、そして他人が苦しむ姿や絶望する顔を見ることに至上の喜びを感じるという、とんでもなく歪んだ性質を持っています。
彼には有名な「ノミの実験」という持論があります。ビンの中にノミを入れて透明なフタをすると、ノミはフタにぶつかるうちに「これ以上は飛べない」と思い込み、フタを外しても高く飛ばなくなるというアレです。王子は、人間もこれと同じだと考えています。 「他人に限界を刷り込み、コントロールする側」に立つこと。それが彼の生きがいなのです。
彼がこの危険な新幹線に乗り込んだ理由は、アル中気味の元殺し屋・木村を罠にはめ、いたぶるためでした。実は、木村の幼い息子・渉をデパートの屋上から突き落とし、意識不明の重体にさせた張本人がこの王子なんです。しかも、突き落とした理由は「ただの実験」「木村がどう動くか見たかったから」という、反吐が出るほど身勝手なもの。
中学生が考えることとは到底思えないほどの悪知恵と、人間の心理の隙を突く周到な準備。読んでいるこちらまで「こいつ、本当に中学生か!?」と恐怖を覚えます。この「無害な外見」と「内面の底知れぬ悪意」のギャップこそが、王子慧の恐ろしさの根源なのです。
彼の最大の武器:「ねえ、どうして人を殺しちゃいけないの?」
王子慧を語る上で絶対に外せないのが、彼が大人たちを精神的に追い詰めるために使う、この有名な問いかけです。
「ねえ、どうして人を殺しちゃいけないの?」
皆さんは、もし急に中学生の少年から、純真無垢な瞳でこう聞かれたら、どう答えますか? 「法律で決まっているから」「自分がされたら嫌だから」「命は尊いから」……おそらく、言葉を濁しながらも、いろんな答えを捻り出すと思います。 でも、王子はそうした大人の常識や倫理観を、まるでゲームのように軽々と論破していくんです。
「戦争では人を殺しても英雄になるよね?」「自分がされたら嫌なことなんて、毎日大人は子供にしてるじゃない?」と。
彼は決して、純粋な哲学的な疑問としてこの質問をしているわけではありません。「大人が論理的に、明確に答えられないこと」をあらかじめ知っていて、相手を困惑させ、自分の精神的優位性を確認するための「絶対的な武器」として使っているんです。 この問いに対する大人たちのしどろもどろな態度、答えに窮して苛立つ姿を見ることで、彼は「自分は特別な存在であり、愚かな大人たちを支配できる選ばれた人間だ」という快感に浸っています。
大人たちは「子供」という存在に対して、無意識のうちに「無垢であってほしい」「導いてあげなければ」という庇護欲を持っています。王子はその大人のバイアス(思い込み)を完璧に理解し、逆手にとっているのです。 伊坂幸太郎さんは、この普遍的で答えの出ない倫理的な問いを、最も残酷な少年の口から語らせることで、私たち読者にも強烈な揺さぶりをかけてきます。王子のこのセリフを読むたびに、なんだか自分自身の足元、自分が信じていた常識の地盤までグラグラと揺らぐような、不気味な感覚に陥りますよね。
復讐者を奴隷に変える、底知れぬ支配欲
新幹線の中で、王子は自分の標的である木村を完璧に支配下に置きます。この過程がまた、読んでいて胃が痛くなるほど巧妙で残酷なんです。
復讐に燃えて新幹線に乗り込んできた木村を待ち受け、逆に隙をついてスタンガンで返り討ちにする王子。そして、ただ力でねじ伏せるだけでなく、病院にいる木村の息子・渉の病室に手下(同級生)を配置し、「自分が電話一つかければ、いつでも息子を殺せる」という究極の脅迫材料を用意していました。
木村は元殺し屋であり、戦闘能力では当然中学生の王子を上回っています。しかし、「息子の命」という絶対的な弱みを握られたことで、彼は手も足も出せなくなってしまいます。 王子は木村に対して、ただ命令に従わせるだけでなく、精神的な屈辱を執拗に与え続けます。時には優しく接するふりをし、希望を持たせてから突き落とす。人間の心を完全にオモチャとして扱っているのです。
「自分は安全圏にいて、相手の生殺与奪の権を握り、もがき苦しむ様を観察する」。 この圧倒的な自己中心性と共感性の欠如は、まさにシリアルキラーのそれです。フィクションの世界には様々な悪役が登場しますが、王子のこの「じめっとした精神的な残酷さ」は、群を抜いて恐ろしいと言えるでしょう。
破綻の始まり?論理のバケモノVS直感のトーマスオタク・檸檬
さて、木村を奴隷にし、余裕の笑みを浮かべる王子ですが、そこは殺し屋たちがひしめく特急列車。彼の思い通りには事が進みません。 ここで絶対に見逃せないのが、凄腕の二人組「檸檬」と「蜜柑」との接触です。
王子は持ち前の「可愛らしい中学生」の演技で、プロの殺し屋である彼らさえも騙せると思い、接触を図ります。実際、世の中のほとんどの大人は王子の見事な演技に騙されてきました。頭の切れる蜜柑でさえも、最初は彼をただの一般の乗客(巻き込まれた可哀想な子供)だと思っていました。
しかし、檸檬にはそれが全く通じませんでした。 檸檬といえば、機関車トーマスをこよなく愛し、すべての人間をトーマスのキャラクターに当てはめて判断するという、愛すべき変人キャラクターです。 檸檬は、王子の取り繕った笑顔の奥にある「邪悪さ」を、論理ではなく直感的に見抜きます。
「こいつはトーマスでもパーシーでもない。意地悪で嘘つきなディーゼルだ」と。
このシーン、読んでいてめちゃくちゃスカッとしましたよね! 王子の「論理的で狡猾な計算」が、檸檬の「トーマス基準の直感」の前に見事に破綻した瞬間です。論理や理屈、世間の常識で武装しているからこそ、檸檬のような「自分の絶対的な直感(しかもアニメのキャラクター基準)」で動く規格外の人間には、王子のペテンは全く通用しないのです。 賢すぎる悪を打ち破るのは、理屈を超越した直感。この対比の描き方に、伊坂作品の面白さが凝縮されています。
計算し尽くされた悪意を狂わせる「不運」・七尾との対比
さらに、本作の主人公的ポジションである不運な殺し屋・七尾(天道虫)と王子の存在も、物語において非常に面白いコントラストを生み出しています。
先ほども触れたように、王子慧は「すべての物事をコントロールしたい」という強烈な支配欲を持っています。他人の行動、感情、さらには生死さえも、自分の掌の上で完璧に転がしていると信じていますし、実際そのための努力(悪知恵)は惜しみません。いわば「絶対的なコントロール(秩序)」の象徴です。
一方の七尾は、とにかく「不運」。自分の意志とは関係なく、常に最悪のタイミングで最悪の事態を引き起こしてしまい、自分の人生さえ何もコントロールできていません。トランク一つ運ぶのにも命がけになり、降りようと思っても扉が閉まって降りられない。彼が動くところには常に「カオス(混沌)」が生まれます。
この物語が進むにつれて、王子の緻密な計算と悪意による「完璧なコントロール」は、七尾が引き起こす予測不能な「不運(カオス)」によって、徐々に、しかし確実に狂わされていきます。 どんなに頭の良い悪魔が完璧な蜘蛛の巣を張ったとしても、そこを不運な人間がドジを踏んでめちゃくちゃに壊して通り過ぎていく……。 王子の計画が、七尾の意図しない行動によって知らず知らずのうちに崩されていく展開は、読んでいて手に汗握る面白さであり、「ざまあみろ!」と溜飲が下がるポイントでもありました。
おわりに
いかがでしたでしょうか? 今回は『マリアビートル』に登場する最凶の中学生、王子慧について、その始まりの異常性から、殺し屋たちとの息詰まる対峙までをみっちりと語らせていただきました。
彼が作中で見せた残酷さや狡猾さは、本当に胸糞が悪くなるほど(最高の褒め言葉です!)見事な悪役っぷりでした。 彼を単なる「フィクションのサイコパス」として片付けることは簡単ですが、ネットの匿名性を盾にして安全圏から他者を傷つける現代の私たちの中にも、少なからず「王子慧」のような部分が潜んでいるのではないか……。だからこそ、私たちは彼に恐怖し、同時に目が離せなくなってしまうのかもしれません。
さて!ここまで完璧なコントロールで大人たちを弄んできた王子慧ですが、果たして彼はこのまま無傷で終点・盛岡駅を降りることができるのでしょうか? 「安全圏にいる」と信じて疑わない彼を待ち受けているモノとは……?
伊坂幸太郎さんの作品には、他にも魅力的なキャラクターがたくさん登場しますが、皆さんはどのキャラクターが一番印象に残っていますか?
それでは、今回の「動画と読書の栞」はこの辺で。 また次回の記事でお会いしましょう。今日も素敵な読書タイムをお過ごしください!






